化粧の話。

化粧が苦手だ。正直この世から消え去ってほしいと思うこともままある。

普段はさぼっているものの、アイメイクをしたいと思い立ってしまったらそれだけで家を出る2時間ほど前から用意しなくてはならない。

 

嫌いというほどではない。化粧というものはいわば武装であり、外界から自らを守るマスクを作り出す技術だと思っている。いい防具を身に着けることができれば、いつ何時外敵に襲われるかびくびくせず生きていくことができる。

しかしながら、私の手先は不器用なので、うまく防具を作り出すことができない。朝起きて外へ出る身支度をするたびに自分の手で防具を作らなければならないというのに、私の腕前では毎朝確率の低い防具ガチャを回しているようなものだ。

上手くいけば一日中安心して身を任せることができるし、うまくいかなかった日には防御力がむしろマイナスを回るので防具抜きで出かけるしかない。

 

幸か不幸か、ヘイシャは私を雇うだけのその懐の広さにたがわず服装の規定に関しても大変寛容だ。サンバ衣装でも着て出社しない限りは、そして重客と顔を合わせる日にストリートスタイルで決めてきたりしない限りは、うるさく言われることはない。

化粧をしなかったからと云って、「もうちょい女の子らしくしなよ(笑)」という嘲笑を受けることもないのである。

 

じゃあもう化粧とか七めんどくさいこといいじゃんと思う。思ってしまう。

事実ここ最近朝起きられなくて、部屋着の如き適当な服にノーメイクマスクで出社してしまうことが多々ある。

べつにそのスタイルが悪いと云っているわけではない。本人が気に掛けないのであれば好きにすればいいと思う。実践している私がとやかく言えることではない。

 

ただ難儀なことに、私は鏡を頻繁に見てしまう癖があるのだ。

 

それは自分の顔が大好きで見とれているとかそういうことではもちろん一切なく、「自分は今人に見られて差し支えない容姿をしているかどうか」が、脅迫的に気になってしまうのだ。

私の知人には己の顔が嫌いすぎて整形を決意した人がいる。その決断力は、こう言ってしまうとその人には悪いが、羨ましいと思う。

 

そこまでではないのだ。

自分の顔は嫌いではない。鏡を見る度自己嫌悪にかられる、というほどではない。

ただ、ものすごく不細工だなこいつ、と思う。人に見られて恥ずかしいと、思ってしまう。我ながら随分小さいメンタルだが、この「恥」が私の化粧に対する原動力である。

本当に化粧が嫌でノーメイク主義ならば、マスクなんてせず堂々と出歩けばいい。それができない。

 

だからこその、人の視線から己を守る防具としての化粧だと思っている。

 

まあそれはそれとして苦手だし面倒なので、この文化を生み出したやつは百回ほど死んでくれとも思う。

今日も今日とて怠惰に朝の時間を過ごし、間に合わなくなってマスクで出勤した。人間やるの向いてねえなと思うことしきりである。